palewhite’s diary

心模様は、日々さまざま。

「細雪」 谷崎潤一郎 戦前の婚活事情

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嫋々とした女性文化、上方文化を味わえる

日常の目まぐるしさに疲れたときに読みたくなる本がある。その一つが「細雪」。
大まかなストーリーは、第二次世界大戦前、いわゆる戦前、船場の旧家の嬢はん(いとはん)が
結婚相手をお見合いで探す物語。家と家同士の結婚がスタンダードだった時代の婚活?物語。

江戸っ子の谷崎潤一郎が、わざわざ大阪弁を研究して大阪弁の口語体で書いた物語は、
美しい蒔岡家四姉妹の三女、雪子のお見合いが軸となっている。
様々な見合い相手との間で起きるドラマと姉妹それぞれの身辺で起きる出来事が、
やわやわとした話言葉の大阪弁で語られていく物語からは、古き良き上方文化人達の生活も
覗きみることができる。
せわしい毎日からの、ひとときの逃避にはもってこいだと思う。

そもそもテーマが「お見合い」という受け身なものであることからわかるように、
細々した日常生活の描写が作品に描かれていることもあり、物語はくっきりとした輪郭がない。
というか、これといった起承転結がない感じ。
あくまで淡々と四季の移り変わりと共に話が進んでいく。

現代の女性のガールズトークに通じる内容

姉妹のおしゃべりが作品中の半分くらい、非常に多くを占めているため、必然的に作品の内容が
着物、外食、観劇、旅行、お見合い相手の品定めなど女性好みの内容となっている。
戦前のガールズトークは、今読んでも共感できるところがあって楽しい。
戦前というとすごく古臭いイメージだけれど、雪子はピアノを弾き、フランス語のレッスンを
受けている。現代の私達大人女子の習い事と内容に大差がない!ところに驚く。
そして戦前の富裕層の底力を感じ、戦争で失われたあの時代の優雅さに思いを馳せる。

ある意味クールな結婚観

またお見合い話を持ってくる親戚、姉妹の友人、美容院のマダムの働きかけに、形の上では
あくまで受け身で応じている雪子と蒔岡家の姉妹が、見合い相手にくだす判断は冷静で厳しく
容赦ないところも面白い。
現代の私達が「人柄重視」なのに対して、戦前は「家柄・お金重視」。
そのことがストレートに、当然でしょと言わんばかりに語られているのが小気味いい。
美しい四季や繊細な心理的描写との対比で際立つ、このお見合いに対するドライな姿勢。
時代が変わると婚活の前提も変わる。
現代の方が、はるかに結婚に夢があるように思えるのは私だけの感想かしら。

抹茶と一緒にいただきたい

文庫本で「上」「中」「下」巻というボリュームの割には、口に入れると、とろけるお菓子の
ようで、さらさらと読み進める。ほの甘く後味が口に残る和菓子のような不思議な作品。