palewhite’s diary

心模様は、日々さまざま。

ときめきが存在しても

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久しぶりに見た夫は、気温の高さにネクタイはなく、白いシャツを腕まくりし
胸元のボタンを開けていた。
離れて暮らしだしてから、意図的に視線は向けないようにしていた。
お互いに相手の顔を見ずに行う礼儀正しいやり取り。

その日は思いきって彼の顔を、見た。
目を見て話すのは一か月ぶり。
ドアの内側、玄関で短い会話を交わす。

夕暮れの仄明るい玄関に、白いシャツの彼の姿が浮かび上がって、
その姿にときめく自分がいる。
結婚生活を重ねるうちに、彼が私の好みの男性像となった?
それもあるかもしれないけれど、程よく筋肉質で、悲しむ子犬のような眼を持つ
彼は、一人の男性として魅力的なのだ。

今日の私のいでたちは?とっさに自分を確認する。
白い胸元の開いたふんわりとした袖のトップスに、一粒ダイヤのペンダント。
彼の眼に映る私は、やっぱり綺麗でいたい。
こんな気持ちを悟られないように、娘との面会の予定を打ち合わせる。

自分好みの男性であっても、愛せなくなることもある。
そうなると、グッドルッキングの魔法はもう効かない。
心が「もう、おしまい」を告げたら、外見や条件やお金や安定は
オセロゲームの白が黒になるように意味がなくなる。

もう愛せなくなったのに、自分自身を裏切る気持ち。
ドアが閉まり彼が消え、空間の密度が薄くなる。
私はすぐに部屋にはひきかえせない。


インターフォン越しに、娘から鍵を開けてほしいと声が響く。
その声が船のいかりのように、現実に私を戻してくれる。
感傷に浸るときも、感情に揺れるときも、
この瞬間を味わって、それから現実に帰ればいい。
エプロンの紐を結びもう一度、玄関に向かう。
お腹を空かせて帰ってくる娘に「おかえり」を言うために。