palewhite’s diary

心模様は、日々さまざま。

大人の夜の始まり

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先日再会した古い友人に、学生時代にアルバイトをしていた広告代理店の

元編集長が、経営者兼マスターのバーがあると教えてもらった。

一緒にいってみないかという誘いの言葉をかけてもらい、心が弾む。

そこは彼と私の家のご近所。

実は前から大体の場所は知っていた。方向音痴な私はどうしても見つけられなかったけれど。

バーがあるらしいエリアは私の生活圏だったので、意識の片隅には入っていた。

でも訪れようとは考えもしなかった、いや過去の私を知る人物との接触は避けていた。



絡まった毛糸のような夫婦関係、気まぐれに毛糸玉にじゃれる子猫のように、残酷な幼さで

私達を引きまわす夫の両親、まだいとけない一人にはできない娘と、宙ぶらりんな私。

それらが私を重力以上に、規則正しい生活に留めていた。

地に足のついた穏やかで安定した地方都市での生活。

気が付くと、悲しみの粒が心を占めるようになっていた矛盾でいっぱいの人生。



この土地に暮らすことを決めて、引っ越す際にグラス類はすべて処分した。

けれど出産祝いのお返しにもらったこのグラスだけは、その美しさに捨てることができなかった。

ずっとサイドボードにしまってあることが、抜けなくなった、痛まないので放置してある指の棘のように、

私の心を刺し続けていた。

サイドボードの中で放置された日の目を見ないグラスに、自分の楽しみや幸せをないがしろにする、

自分を裏切る自分自身を重ねていたのかもしれない。

そのグラスをやっと取り出して、写真に撮る。やっぱり綺麗。



妻だって、母だって、自分を大切にしていいの、自分がまず幸せで、

溢れるものを家族に循環させるほうがうまくいくもの。

・・昔の生真面目だった私に教えてあげたいけれど、それはもう、済んだこと。

このグラスを使おうという心の弾みが戻ったことに、まずは乾杯しよう

私は自分の道を歩き出したから、過去は後悔ではなくて、優しい思い出になった。



昨年の9月に夜の外出は再開したけれど、まだあれは子どものお遊び。

あの頃の私は夫と母に庇護されながらもがいていた。

そこに本当の自由は、なかった。

今は門限つきの女の子のような縛りからは卒業したし、門限は私が決めること。

妻でも母でもない、一人の人間として、ただ夜の時間を愉しもう。

バーで元編集長に会い、何が飛び出そうとも、もう平気、大丈夫。



大人の夜の始まりは、秋の夜長の到来と共に。