palewhite’s diary

心模様は、日々さまざま。

ヴォイストレーニング① 音声チェツクを受ける

f:id:palewhite:20140926193519j:plain

ヴォイストレーニング開始前に現状把握

ナレーター、音声指導者である先生のもとでヴォイストレーニングを開始するにあたり
最初の関門がやってきた。
そうはいってもたいしたことではく、先生が個人に合わせてより良い指導をするために、
現時点での本人(私)の発声・発音を確認しチェックされるのだ。
未知の小テストを受ける気分。ドキドキする。

最初は記入用紙に書き込んだ内容を見ながら先生との面談。
記入用紙にはどんな声を出したいか、どのような目的でレッスンを受講するかなどの質問や項目に混じり、
両親、自分の出身県、アレルギーのあるなしなどの確認項目があるのが面白かった。
項目をわりとあっさりと書き込んで終了し、先生との面談が開始。
アルミニウムのような銀色に鈍く光るドアのハンドルを廻すと、現れたのは黒が基調の録音スタジオ。
蛍光灯が煌々と光る、白い丸テーブルが散在するオープンスペースから照度が低いスタジオへ移り、
目が暗さに慣れずこれからの面談への緊張感が増す。
狭い空間で二人向き合うと少々重苦しい雰囲気だったが、そこはのびのびされている先生との面談。
何となく笑いあい記入用紙を先生に渡し、面談から音声チェックは始まった。

噛みあわない会話を楽しむ

「普段運動はしないの?」
「はい、ストレッチとウォーキングをしています、ウォーキングというより散歩でしょうか?」
「散歩!?散歩しとるの?何分ぐらい、一週間に何回、何分?」
「そうですね・・最近は1週間に2回くらいかな?スーパーや公園に行く時片道20分くらい。」
しばし沈黙。

「運動量が少ないなあ、他には何にもしとらんの?」
「えーっと、あ、家で踊っています。」
「ほう、どんなダンス、何の種類?」
「種類というか好きな音楽に合わせて鏡の前で身体を動かしているんですけれど・・・」
「どのくらい激しく?」
「いやそんな激しくはないです・・。」
「そうか・・・。」
「でも最近は毎日お気に入りの音楽に合わせて踊ってるかな♪」
先生の質問に答えているうちに可笑しくなってきて笑ってしまう。
運動に関する質問はこれで終わった。

次に今までの声に関するしたことを何でもいいから挙げるように、と先生から指示が飛んだ。
「小学校で絵本の読み聞かせボランティアを4年間しました。」
「面白いやろ?」
「はい、子どもたちの反応は正直で楽しいですよね。」
先生もボランティアで小学校で読み聞かせをなさったことがあるので話が弾む。
「あっ、高校の時に3年間合唱部でした。」
「それはいい。じゃあ発声練習は何してた?」
合唱部の発声練習について意見を述べ合う。
「ナレーター希望の奴でも声色を変えたり、何種類もの声を使い分けるのを嫌がる奴がおるげんけど、
その辺りはどう?」
「そうですね・・・我が家は娘が一人で兄弟がいないので、子どもが2歳くらいから私が何匹かの
ヌイグルミの声を出していますね。ヌイグルミが生きていると信じてるかもしれません。」
先生はにやりと笑い、挑むような眼でこう言った。
「・・・それはいいね!声色変えたくないっていう奴よりよっぽど、いい。」

本気を見せる

和やかに笑いながら会話する状況に馴染んだ頃、先生は急に核心に迫る質問を放たれた。
「どうして今まで表現してないの?劇団とか朗読とか?」
私は自分の心を見つめながら一呼吸置いて、想いを言葉に変換してみる。
「今私はブログを書いていまして、今までは書くことが自分の表現の仕方だと思っていたんです。
人前で話すことは仕事の一部としか考えていませんでした。でも今は、声でも自分を表現して、
お金を稼げるようになると決めています。」
先生はナレーターでもない私の発言に少しびっくりされたようだ。
先生の眼を見つめ、微笑みながら、先生の出方を待ってみる。

お遊びではない。私は真剣。

先生はほんの僅かな沈黙の後、全身で笑い椅子から身体を前のめりにして私の視線をとらえながら、
言葉を発してくださった。
「どれだけかかるかはまだわからないけれど、やってみよう。できることはするけれど、
声を気に入ってくれるのはお客様になるわけだから、絶対モノになるとは保証はできない。」
笑顔で頷き、先生の言葉に同意する。
「もちろん仰る通りです。でも・・ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」

レッスン開始の時間が近づいてきた。
先生と慌てて呼吸・発声・発語・詩の朗読の音声チェックを始める。

まずは呼吸から

先生が声のチェックをしてくださると私が自己申告した弱い部分と鍛えなければいけない部分が一致していた。
元合唱部とはいえ出産し、その後筋肉を意識的に鍛えておらず肺活量も多くはない私はやはり呼吸が浅め。
呼吸法の練習から重点的に始めようということになった。
次に声量。近い距離なら問題ないが、遠くへ声を響かせるには声量不足かつ響きが足りない。
その点も今後の課題になった。

気になっていた滑舌や音の出し方はあまり指導が入らず、詩の朗読も先生からのコメントはなし。
「緊張しとらんかったやろう?」
と悪戯をしかけた小学生の男子のような顔で先生は尋ねてこられる。
「少し緊張しましたけど・・・ううん、あんまりしてないかも。楽しかったです!」
音声チェックに怯えていたはずなのに、言葉を発しているうちにしんとした空間に入り込み
何も気にならなくなった。
母音を丁寧に発するように心がけ、音程を変えずに「アー」と3種類の発声をせよという難問に手こずる自分に
笑いそうになり、谷川俊太郎の詩の世界を味わい楽しんで読み上げ録音している間、声を発してはいるけれど
静謐な時が流れていた。
何がこの感覚に近いかというと、茶道でお点前をしているときに茶筅でお茶をたてている瞬間。

何でも挑戦してみると面白いものだ。

気が付くとレッスン開始数分前。
先生と録音スタジオから移動しなくてはと、所持品を集めたり撤収段階に入る。
さあ出ようと思っていたら、先生が困った顔で私を見ている。
「その恰好でレッスン受講する?」
今日は白いふんわりした膝丈のギャザースカートを灰色のパーカーに合わせて着てきていた。
もちろん着替えは持ってきている。大丈夫、先生忘れていませんから。

今日初めて先生の困った顔を見た私は愉快になり、にっこり笑ってこういった。
「着替えを持ってきているので着替えてきますね。急いで着替えてきますが、遅くなったら
申し訳ありません。」
一仕事終えて爽やかな気持ちで、スタジオのドアを開ける。
ドアのハンドルを、今度は軽く感じた。